院長コラム
Column
あるがままをみる
2020年07月20日
新型コロナウイルスの感染が全国に再熱しはじめ、不安がひろがりつつあります。
その理由やウイルスのメカニズムを考えるとわからないことだらけですが、目の前に起こっていることは、日本では重症例はすくなく、風邪に類似した多くの特徴をもつ感染症です。
もちろん高齢者などのリスクの高い人に対する厳重な注意は必要ですが、現時点では事実以上の不安を増幅させてパニックになる必要はないのだと感じます。
粛々と冷静にできることを実践していくということなのでしょう。
不安や心配なことが起こった時には、その現象のあるがままを冷静にみて、対応することが大切なのだと感じます。
しかし、物事をあるがままにみるというのは本当に難しいことです。
なにかしらの先入観や思い入れがあると正しくみることはできません。
気に入っていることに対しては評価が高い一方、嫌いなものに対してはどうしても評価が低くなってしまいそうです。
応援するチームや選手があるとなにかしらよい理由をつけて高く評価してしまいがちですね。お気に入りの芸能人もそうのでしょう。
身近な肉親のことならより特別な思い入れが入りそうです。特に自分のことは尚更難しいことです。
三つ子の魂百までという諺がありますが、多くは子供の時代にできあがった価値観を大人になってもひきづっている場合が多いそうです。
物事の見方は人それぞれですが、共通の認識とかけ離れたあまりにも偏ったものの見方をもってしまうとそのGAPに悩み、自らを傷つけてしまうことにもつながりそうです。
自らの病気に関してもそうなのでしょう。
例えば高血圧のことを少し考えてみます。
血圧のことを心配されて受診されるのだから、きっちりと管理したいと思われる人が多いように思うのですが、来院される患者さんの反応は様々です。
高血圧であることを認めたくないという人の方が多いくらいかもしれません。普段の家での血圧は低いが緊張すると高くなるだけといって、何度も血圧を測定される方もいます。
高血圧への恐怖とそれを否定した気持ちの狭間で思い悩んでいる方も多そうです。
もちろん高血圧を否定したくなる気持ちも理解はできます。
しかし目の前で起きていることは、自宅での安静時では血圧はそれほど高くないが、緊張したり外で活動している時には血圧が高くなるという事実です。
測定で記録された高い血圧を否定する必要はなく、ありのままを受け入れるということでいいような気がします。
おそらく多くの場合は高血圧のはじまりの所見です。いわゆる白衣高血圧もそれにあたるのでしょう。
血管は加齢とともに硬くなってくるので、どうしても若い時と同じようなライフスタイルをつづけているとどうしても血圧は少しずつ高くなってきます。もちろん血圧が高くなりやすい体質もでてきます。
血圧が高いことが理解できれば、それに対する対策を粛々と実践することです。
まず塩分制限、適度な運動、睡眠、体重などを改善する必要がありますが、それでも血圧が高いままの場合は降圧薬の服用が必要です。
一生飲まないといけないので薬はいやと言われる方もいますが、血圧が高いままにしておくほうが脳梗塞や心不全へのリスクが高くなります。
比較的若年例の場合、収縮期の血圧はできるだけ130mmHg未満に抑えておくほうが生命予後が良好とされています。
血圧が高いままほっておいてた期間がながいから薬による副作用が増えてしまうのだと感じています。
ありのままの血圧を冷静に受け入れ、できることを粛々と行動するということでいいのだと思います。おそらくそこには言い訳や過剰な感情は必要ないということなのでしょう。
お釈迦様は物事をありのままにみることができないことが人の悩みを生むとされます。
一切の先入観、主観、感情、固定観念から自由になってものごとを正しくみれるようになることが仏教の智慧です。
智慧がある人は苦しみや悩みを乗り越えていくことができるのでしょう。
そうわいってもありのままをみることはもちろん簡単なことではなりません。もちろん私自身もまだまだです。
その中でも先入観や感情に振り回されないあるがままを診れる心穏やかな診察でありたい想いです。