院長コラム

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火事場のバカ力

2020年09月20日

朝クリニック出勤時にズボンをはこうと右片足になった時、グキッと腰回りに電気がはしりぎっくり腰になってしまいました。

時折ぎっくり腰になってそのまま動けなくなるくらい重症化してしまうこともあるのです。発症直後はよぼよぼと昔のお年寄りのようによぼよぼと腰を曲げて歩いていましたが、数日で改善したので幸い軽症ですんだようです。

なんとかよぼよぼとでもことなく予定通りの診察を終えることもできました。

数年に1回位はぎっくり腰になってしまうので持病ですね。運動不足や腰回りの筋肉が弱くなっていることも関係していそうです。

ぎっくり腰は経験された人しかわからないのだと思いますが、身の置き場のないような激しい痛みのため、朝起きてベッドのうえに座るまでに30分位かかるほどかかるほど重症化する時もあるのです。

さすがにその時はさすがに仕事に行きたくなくなりますし、何かしらの絶望感のような感情もでてきてしまいます。今まで腰痛が原因で休んだことはありませんが。

1ミリたりと動けないと弱気になっていても、追いつめられて「火事場のバカ力」をつかうと動けるようになるのかもしれません。

「火事場のバカ力」という諺は、火事のときに自分にはあると思えない大きな力を出して重い物を持ち出したりすることになぞらい、切迫した状況に置かれると普段には想像できないような力を無意識に出すことのたとえです。

腰が曲がってよぼよぼとしか歩けなかった高齢の人が火事の時には自分の体重以上も重さのあるタンスを背負って外に運びだすのです。

ほんまかなと思われる人も多いかもしれませんが、自ら経験でも動けないほどの重症のぎっくり腰でよぼよぼとしか歩けないにもかかわらず火事場のバカ力を感じたことがあります。

今でも7-8年位前にフランスのパリに旅行の際に経験したエピソードを鮮明に思い出しますので書いておきます。

自宅からの出発時にトランクを持ち上げた直後にぎっくり腰になってしまいました。楽しいはずの旅が地獄のような苦しみへとかわった瞬間でした。

現地でも起き上がるまでが大変で、じっとしていても身の置き場がないくらいの痛さです。ことあるごとに吐き気を自覚し、脂汗をかいていました。

しかしせっかくの旅行ですし、じっと滞在先のアパートでじっとしているのはもったいないような気もします。じっとしているよりまだかるく歩くほうが痛みが楽のように感じましたので一人でよぼよぼとゆっくり街中を歩いてみました。

その姿が現地の窃盗団には格好の餌食にみえたのでしょう。急に声をかけられた後に前から後ろからと複数の人に囲まれたと思いきや叩かれ振り回されました。

窃盗団が立ち去り、やっとの思いで命を落とすという恐怖感から解放された後、携帯していた貴重品もなくなっていることに気づきました。

携帯電話には銀行などの大切な情報も入っていましたので、このままではすべて財産をなくしてしまうという錯覚にとらわれました(実際はそうではなかったのですが)。

すぐにでもパソコンからパスワードを変更しないとおもいたち滞在先のアパートにすぐさま直行することを決意した際、それまで痛みでほとんど動けなかったのですが、それなりの速さで20分位も走って帰ることができたのです。

そして、滞在先の見たこともないフランス語のキーボードをつかってもPC業務を行うことができる位に頭の中も鮮明で冴えていました。

まさにやればできるの「火事場のバカ力」を感じた瞬間でした。

生命の危機を感じたり、極度に興奮した状態になると痛みを感じなくなり、考えられない位の力が体の奥底からでてくるのでしょう。

話は少しそれますが、その後に現地の警察に行き事情を説明し、事件の証明書を発行してくれ、失ったものは海外保険ですべて保障されました。

盗難や窃盗事件の際、観光客のほとんど泣き寝入りするため(長期滞在できないため、警察や司法に訴えないため)、それを熟知した観光客狙いのグループが油断しているカモを探しまわっていることにはあらためて注意が必要です。

医学的には極度な興奮状態から血液中に大放出されたアドレナリンが、痛みを消失させ、身体のエネルギー代謝を高めて普段出せる力の限界を超えて本来備えられている潜在的なパワーが発揮させるのでしょう。

アドレナリンは闘争と逃走のホルモンと言われ、まさに今回の私のエピソードの時に当てはまりそうです。

循環器の治療では、心不全の患者さんに緊急使用して心臓を強く拍動させたり、血圧の高くさせたりする時に使用します。

そして血管の収縮作用を利用し、出血時の止血にも使用します。鼻血の時にもアドレナリンをしみこませたガーゼを鼻につめるとすぐにとまりますよ。

一方、不整脈をふやしたり、血圧を過剰に上昇させる作用もあるので、心臓に病気がある人や高血圧の人には火事場のバカ力の発動は控えたほうがよさそうです。

健康な人でもアドレナリンが亢進した状態がつづけば負担が大きすぎて体を壊してしまいますので、ここぞという時だけにその力とっておいたほうがよいでしょう。

しかしそれでも、人間には自分でも信じ固いくらい秘められた「火事場のバカ力」が備わっているのだということを知っておくだけでもなんとなくの自信につながるような気もしてきます。

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