院長コラム
Column
擬陽性のリスク
2020年11月30日
新型コロナウイルスの第3波が急速に広がりつつあり、これからの冬を迎えるにあたりかなりの不安もつのります。
一度は盛り上がったGO TOキャンペーンも自粛の様相です。
冬をむかえ日本以外の全世界でも1週間で1000万の感染者がでて急激な増加を示しています。
不幸中の幸いにも当初危惧された死亡率についてはそれほど増加するわけではなさそうです。
ステロイド剤、気管拡張薬、抗ウイルス薬などの使用など治療のノウハウの蓄積が生存率の改善にも寄与しているのでしょう。いずれにしても早めで適切な診断、治療が大切なのでしょう。有効なワクチンも開発されてきたとの朗報です。
しかし、冬にかけての感染の広がりを考えると保健所の業務もパンク状態です。診断・治療以外でも対応業務の一部が病院やクリニックに移管されました。大阪府や国からコロナウイルス疑う患者さんへの診断業務をどうするのかという調査もありました。
当初、こちらのクリニックに通っている患者さんだけでもきっちりと感染の対応をする予定でした。
しかし、いろいろと熟考した上でHPの連絡欄にもあるように感染が疑われる場合は安全に対応いただける施設に早々に紹介することとしました。
当院では感染による重篤化が危惧される心臓病の患者さんも多く通院されていること、ビル内での空調の問題やビル会社の意向などもあるからです。
感染対応されるほとんどの施設では、施設の中に感染が蔓延しないように駐車場などの外気中での診断・待機です。
無責任といわれるのかもしれませんが、中途半場に対応してしまうほうが無責任なのだと思い直しました。幸い当クリニックのまわりでは複数の対応いただける施設が手を挙げられています。
また、無症候性の感染も多いので、症状がなくても感染しているのではと心配されるかもしれません。
感染以外の症状でも緊急で病院を受診したり、手術での入院を予定される場合は、原則PCRでの新型コロナ検査を義務付ける病院も増えてきています。
無症状の方だけを対象として、自分で唾液を採取・送付し、自費で新型コロナウイルスのPCR検査をどんどん行うクリニックもあることをテレビのCMで知りました。
確かに医療関係者の中でも感染の広がりを少しでも防ぐには多くの方を対象に検査を広げるべきだという意見もあります。検査結果が陰性であれば安心にもつながるのでしょう。
しかし、どうしても個人的には無症状の人にまで検査を広げた時の弊害も気になってきます。
以前のコラムでもかきましたが(2020年2月21日分)、有病率の低い母集団である無症状の多くの患者さんがPCR検査をうけた場合、どうしても結果が陽性になった時の解釈は難しいのではと感じてしまいます。
実際に検査がコロナ陽性にでた場合でも、実は罹っていない確率のほうが高くなってしまうということです。
実際、同じ検体でも複数試薬で結果が違うため判断に困るということもでてきています。
臨床現場でも、感染症状がまったくないにもかかわらず、救急の処置を要する心臓病の患者さんが適切な治療がうけることができない、出産した方がいつまでたっても子供を抱くことができないなどの問題のある案件もでてきているようです。
無症状の人にも検査をどんどんすすめて安心をえるという裏には、誤診によるリスクもあるのだということも合わせもって理解しておく必要があるのだと思います。
コロナ不況・不安による自殺者も急増しています。経済的な困窮ももちろんですが、もしかしたら自分や周りの人がコロナ感染ではないかという心の中での心配もさまざまな不安を増幅させるという擬陽性のリスクもあるのかもしれません。
コロナ感染のことだけを意識しすぎたため、気が付けばその他の死亡率が増加しているということがないようにする注意も必要なのでしょう。
そしてコロナ感染以外の物事を判断する際においても、そのメリットの裏にはどのような不利益があるのかということも思いはせる想像力も必要なのだと感じてしまいます。