院長コラム
Column

ウイルス変異

2021年05月21日

変異型のコロナウイルスの蔓延により感染力が増加しているためか、緊急事態による自粛要請下にても感染はすぐには収まらないようです。第4波は今までの波とは少し様相が違うということなのでしょう。

イギリス型、ブラジル型、南アフリカ型などの変異があり、今、日本で蔓延しつつあるイギリス型(N501Y変異)の感染力は従来型より70%程度感染力が高いとされています。

現在インドで猛威を振るっているインド型の変異ウイルスでは、二重・三重変異(L452R E484)ともいわれ、アジア人では免疫反応が弱くなるため重症化する可能性も指摘されています。

インフルエンザやコロナウイルスなど多くの人が罹患するウイルスは環境に応じて変異をします。数え切れない位の再生と消滅を繰り返す中、その遺伝情報の転写・複製の際にたまたま遺伝情報が変化してしまうのです。

そして、たまたま感染力がつよい遺伝情報の変異を獲得した株が、優位に増殖するということなどでしょう。

人間のみならずネコもコロナウイルスにかかります。

多頭を一緒の環境で飼育した場合、一頭が感染するとすべての猫にコロナウイルスが広がり、その上で変異ウイルスも同時に感染させるとすべて変異型へ置き換わっていくそうです。

ネコは症状がでないものの、感染による臓器の後遺症は残るようですね。猫から人間に感染するかどうかは今のところ不明です。

遺伝変異によりウイルスの感染力のみならず強毒化するという可能性もあります。第4波では非高齢者での重症化例も増え、集中治療を行う現場の医師も少し違うといわれています。

実際、同じコロナウイルスが原因である重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)はかなりの致死率です(SARS:約10%、MERS:約40%)。

しかし、あまりにも強毒化しすぎると感染した宿主である人が重症化して滅んでしまいます。その時には、ウイルスの隔離もしやすくなるのでウイルス自体の感染増殖は終息に向かうことになるのでしょうか。しかし、それは人類にとって不幸な結末です。

一方、ウイルスが逆に弱毒化に変異して普通の風邪のようにそれなりに人と共存していくというシナリオもあるのでしょう。

変異型ウイルスではワクチンがきかないのではないかという心配される方も多いのだと思います。

ウイルスの感染や増殖を防ぐには、多くの抗体や細胞性免疫が関与します。ワクチンによりウイルスへの多くの標的に対しての免疫ができるので、ウイルスの一部だけが変異したからといってワクチンの作用がなくなってしまうというのは考えにくいような気もします。

感染症を専門した研究者の方も、変異型に対してもワクチンは同様に有効と考えられているのだとおもいます。多くの人がワクチン接種を行うことにより、ウイルス変異を抑えこむことにもつながるのだと思います。

考えてみる突然変異はさまざまなことに起こりえます。

まず、動物の進化過程は、突然変異の繰り返しです。

ダーウィンの進化論では、動物の進化は努力の積み重ねではなく、たまたまの突然変異の積み重ねです。キリンの首が長いのは、苦労して首を伸ばす努力をしたからではなく、首の長い突然変異の個体が生まれてそれがたまたま環境に適していたからです。

また、人間が繁栄することができたのは、道具や火を使う、言葉を使うなどの他の動物にできない変異をすることができたからです。しかし、そのために人類は周りの多くの動物を絶滅させました。

病気を考えてみても、がん細胞は、突然変異によりその増殖に歯止めがきかなくなってしまった状態です。悪性度がたかければ宿主を滅ぼしてしまいます。

最近では、AIやITといったテクノロジーの変異がおこり、それにうまく適応できたものが繁栄しているとも言えるのかもしれません。

コロナ禍の暗いニュースの多い中でも、大リーグの大谷選手は二刀流、三刀流の大活躍の朗報です。野球に適した遺伝情報に特別な変異をもって生まれたのではないかとも妄想してしまいます。

そして、人類自体も多くの変異、増殖を繰り返して強毒化し、宿主である地球を滅ぼさないようにする配慮も大切なのだという気もしてきます。

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