院長コラム
Column
アドヒアランス
2021年10月22日
処方された薬を飲むということに対する受け止め方は人によって様々です。
薬を処方されてもきっちりと飲んでいる人のほうがすくないかもしれません。
薬の効果に納得している人もいるでしょうし、薬が体に悪い効果を残すと思い込んでいる人もいそうです。
感冒薬や痛み止めなど短期間だけ服用する時ならまだしも、長期に服用する場合は尚更なのでしょう。
また、ご高齢の方では服薬する行為自体を忘れてしまうため、周りで注意する人も必要となりそうです。アドヒアランス(治療方針に従ってきっちりと薬を服用する)は、高齢社会での日常臨床での大切なキーワードです。
もちろん、薬にはよい面と注意すべき面がありますので、その効果のバランスととる必要があります。その効果をきっちりと証明するためには、服用した人とそうでない人との比較が必要です。
薬がどれくらい有効かを証明するための比較臨床試験でも、きっちりと飲まない人(飲めない?)は多く、かかる人の割合が増えるほど、その薬の効果がわかりにくくなります。
薬の有効性とは、きっちりと飲まない人を含めての薬の効果ともいえます。
薬の有効性がきっちりと証明されています場合、病気を中途半端にそのままにしておくよりは必要な基準に応じて飲んだ方がいいと思います。
また、アドヒアランスが悪いと薬の副作用も増えますので、せっかく服用するのであればきっちり服薬すべきです。
しかし、薬は原則毒だから飲まないほうがいいと公言している記事もよく見受けられます。それを支持する医師も少数ながらいるようです。
その情報を信じている患者さんも多いのかもしれません。
医学生の時、授業でそのようにいっている教職の方もいました。自分のやっていることが悪いと信じているのならそれを職業にするべきではないのではないかという矛盾を感じたことを思い出してしまいます。
また、病気の種類やキャラクターによっても服薬への反応の差はありそうです。
循環器診療では、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の方がすぐに思いつきますので比較してみます。
一般的には高血圧の人は服薬に慎重で、糖尿病の方は寛容です。薬を飲みたくない敏感な高血圧気質、服薬に寛容な糖尿病気質というイメージでしょうか。
特に糖尿病気質の方は薬の量が少々増えても、美味しいものを食べたいということなのでしょう。
個人的にも高血圧と高脂血症の薬を継続服用しています。もちろん診断基準を満たしているから服用しているのですが、患者さんへはまずは生活節制を指導する程度の軽症です。
私が糖尿病気質だから服薬に抵抗が少ないというのもあるのかもしれませんが、それだけではありません。
長年にわたる循環器の医師としての確信は、長期的にきっちり服薬してリスクを管理している人の方が、中途半端にしている人よりトラブルが少ないということです。
30年近くにわたり血管の造影所見をながめつづけてきたからくる知見です。
日常のクリニックの診療でも、よかれと思って服用をすすめてもその反応は様々です。
勤務医の時ではもう少し言うことをきいてくれたような気もしますので、大きな病院とクリニックでの信用度には差があるのかもしれませんね。
しぶしぶ飲み始めてても十分に納得できていないと、飲み始めた薬もすぐに途中でやめてしまいそうですし、お互いの意図に沿わなければそれぞれの心も傷つきます。
今の情報化時代、治療方針は医師だけが決めるのではなく、すでに患者さんの心の中にもあるということなのでしょう。