院長コラム
Column
平手打ち
2022年05月06日
映画のアカデミー賞表彰式で、オスカー俳優のウィル・スミスさんが、妻の外見への誹謗中傷に我慢できず、プレゼンテーターに平手うちをしてしまいました。
少し前のことですが、今でも時折記事でとりあげられていますので、多くの人が興味をもつことなのでしょう。
もちろん暴力はよくないことです。しかし、その反応については賛否両論です。
アメリカでは、暴力は許されない、罰せられるべきという意見が多いようです。
一方、日本では、大切な人を守るためなら仕方がない、自分がその立場ならそうしたなど、ある意味よくやったという評価が多いようです。
確かにそれぞれの意見に納得させられることがありますが、そもそも日本人って暴力をよしとする風土だったっけ?和を大切にしてきたのでは?という気もします。
もし30年前に起こっていた事件なら、規則にきっちりした日本では暴力は許されないといい、アメリカでは身内を守るために力を誇示することは少々しかたがないと、結果は逆になっていたような気もします。
時代はかわったということなのでしょうか?日本は少し前のアメリカの文化や価値観を後追いしているということなのでしょうか?
現在のアメリカでは、感情を抑制できない、自己管理できない人は認められないという風潮があるようです。
昔はムキムキで力強くて少々暴力的な男性がもてはやされていたのが、今はそれが生理的にも嫌悪の対象にもなるとのこと。
さまざまな価値観をもつ多民族国家を維持するためには、あらためてやっぱり規則は大切ということなのかもしれません。
個人的には、いかなる理由があっても暴力はやはりよくないと思います。
平手うちは大丈夫でもげんこつでは? 手は大丈夫でも足での蹴りは?器具をつかったら(ここまでくると犯罪に近いですが)?など、いったいどこで線引きをしたらいいのかという問題もでてきそうです。
さらに20年後の日本では、いかなる理由があってもやっぱり暴力はよくないという意見が多いのかもしれません。
時代によって、価値観や風潮がどんどん変わっていくというのはオヤジすすむほどにどうしても感じてしまいます。
その後、ウィル・スミスさんは非常に反省されていますので、いずれにしても急に噴き出た怒りの感情をうまく処理できなかったということだと思います。
うまく怒りをコントロールできないという患者さんの訴えは日々の診療でも時折聴きます。
その感情をうまく処理できないことが、血圧の上昇などの健康トラブルにつながっている場合もあるのでしょう。男性の更年期の症状にもあるようにも感じます。
まずはすぐに反応せず、ゆっくりと時間を取る、深呼吸をするなどのリラックスによるアンガーマネージメントが大切です。
そして、裏に隠された健康問題があるようなら、それに関する適切な治療なども必要となります。
体がしんどい時はどうしてもイライラして怒りをうまく処理できなくなってしまうからです。
同じく元オスカー俳優のデンゼル・ワシントンさんがウィル・スミスさんに「絶頂の時に悪魔がやってくる」とアドバイスしたとのことです。
確かに、自分は一流役者だから周りの人は敬意をはらうべきだというおごりもあったのかもしれません。
毎日のニュースで取り上げられている大国ロシアのウクライナへの侵略も、あらためて怒りや暴力について考えるきっかけにもなっています。
暴力や怒りをうまく管理するためには、常々おごることなく謙虚であることの大切さにも気づかされます。