院長コラム
Column

どうも理屈にあわない臍帯血輸血騒動

2017年09月04日

倒産した民間の臍帯血バンクの臍帯血を使用した不適切な輸血が問題となり、関係する医療関係者が逮捕されました。かなりの高額の治療行為だったようですね。刑事事件としても起訴され、かなり倫理的な問題も問われています。

臍帯血(それも他人の!)の輸血は美容や癌に有効だということで治療の有効性をかなり宣伝していたようなのですが、記事になるまで私自身このような治療が存在しているということは全くしりませんでした。

そもそも臍帯血の輸血や骨髄移植は、本来白血病などの血液の病気だけを目的とした治療です。私は血液や免疫の専門家ではないので自身で臍帯血輸血を行ったことがないのですが、記事の内容をみた範囲ではどう考えてもこの治療が血液の病気以外の癌に有効であるということにつながらないのではないかと感じます。臍帯血に含まれている若々しい成分が、なんとなく多くの病気を解決してくれそうだというイメージでしょうか?私個人としては癌を悪化させてしまうというイメージのほうが強いです。

リスクのない治療の場合は、患者さんが納得するのであれば結果オーライというのもありかもしれませんが、どうも理屈にあわない気になることがいくつかありますので気づいたところを書いてみます。免疫の話は少し難しくなることと少々批判的な内容になってしまうことはご容赦ですが、ご理解の一助になれば幸いです。

臍帯とは胎盤と胎児を結んでいる血管です。その中に含まれている血液には未熟な多能性細胞(幹細胞)があり、血液細胞に分化できる血液の幹細胞も含まれています。そのため臍帯血輸血は骨髄移植の補助という形で白血病などの血液の病気の方に行われている治療です。

赤血球にはABOの血液型有名で輸血の際に注意が必要なのはよく知られていますが、白血球などの免疫細胞や組織にもHLA(ヒト白血球抗原)型という組織型(6座)があります。手術などの輸血の時は赤血球のみを輸血するので、ABOの血液型のみを注意すればいいのですが、免疫の細胞や臓器を移植するというのであればHLA型を一致させる必要があるのです。

本人の血液でない限り免疫細胞の輸血・移植では必ず拒絶反応がおきます。腎臓の移植などでは拒絶反応が強くないので、少々一致していなくても免疫抑制剤をしっかり使用すれば術後の経過は良好なのですが、こと白血球などの血液細胞については拒絶反応が強く(そもそも異物をみつけ排除する細胞なので)、かなりのレベル(6つの型の5型以上)で一致させる必要があります。珍しいHLA型の場合は、骨髄バンクには何十万人の方が登録されているにも関わらず一人も一致しないので移植できないという事態もあるのです。

臍帯血輸血は骨髄移植に比べて一致率は少なくてよいと言われているようですが、それでも他人からの輸血については厳重な注意が必要です。少なくとも数千~数万例レベルの登録数が一致するには必要と思われるのですが、倒産した民間の臍帯血バンクでそれだけのストックがあったのかとことも気になります。

また、他人からの免疫細胞の移植受ける場合、必ず抗癌剤や放射線療法を使用することにより自分の免疫細胞の数をほとんどゼロの状態にしたうえで血液細胞移植うける必要があります。自分の免疫細胞があると必ず拒絶反応が起こり、通常の状態でそのまま移植したとしても移植した血液細胞が生着して体内で増殖していくことはおそらくできません。

おそらく今回の騒動で拒絶反応がほとんどなかったということは、投与した細胞の量が少なく、持続的に体内に生着できなかったため、つまりは拒絶反応も効果もなかっただけだったという可能性が高そうです。それと拒絶反応は1週間後や数か月以降にでてくる場合が多いため、入院施設のないクリニックで管理できるのかということもどうも理屈にかないません。

末期の癌の患者さんでは、少しでもいいと言われる治療ならとわらにもすがる思いで治療を受けいれ、工面してその費用を払われているのだとおもいます。本当に患者さんのためを思った正当性のある行為であると主張されるのならば、多額の利益を含んだ高額治療を提供するということも理屈にあっていないように感じます。

 

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