院長コラム
Column
睡眠時無呼吸症候群 SAS
2017年09月14日
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は循環器病の患者さんに多くみられるにもかかわらずHPにはちゃんと記載していないことに気が付きましたので、HPの診察項目の欄に追加記載しました。
SASは、眠っている間に呼吸が止まる病気です。10秒以上の気流停止(気道の空気の流れが止まった状態)が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、若しくは1時間あたり5回以上あれば、SASと診断します。
睡眠は脳と身体を十分に休息させるためのものですが、その間に呼吸停止が繰り返されることで、寝ている間に低酸素血症や交感神経の活性化がおこってしまいます。その結果、脳や身体には大きな負担がかかってしまい、気付かないうちに日常生活に様々なリスクを増加させてしまいます。SASの患者さんでは糖尿病のリスクが4倍、高血圧のリスクが2.9倍、不整脈のリスクが4倍、脳卒中のリスクが3.3倍高くなると報告されています。
多くの場合は、喉や首回りが太くなることで上気道に空気が通りにくくなることがきっかけになるため、肥満の方に多くみられるのが特徴です。メタボだから血圧や血糖が高いことが多いということもあるでしょうが、SASがあるからさらに血圧や血糖が高くなるという悪循環もおきているのでしょう。
また十分な睡眠がとれないと、日中の集中力や記憶力の低下、頭痛、眠気につながり、仕事に支障がでるだけでなく、車の運転の時の事故にもつながることにも注意が必要です。
昔、今は亡き父が、お酒を飲んだ後(毎日でしたが)に寝汗とともに大きないびきをかきながら、呼吸が止まっている時がよくありましたが、SASだったのだと思われます。確かにその時に肥満、高血圧、糖尿病と診断されていました。いびきがあまりにもうるさいのでいびきを止めるためによく鼻をつまんでいましたが、息が1分位止まってかなり苦しそうだったのを思い出します。今思うとひどいことをしていました。日中に映画を見てもすぐに寝て覚えていないといっていたので、かなり睡眠が不十分だったのでしょう。
いびきがうるさいというのは本人の問題だけではなく、家族の方にもかなりの影響ありです。配偶者の方がいびきに困られて別の部屋で寝ることになったり、別部屋生活を始める原因にもなってきます。考えてみれば周りにも迷惑が広がる喫煙のようなものですね。
不整脈のカテーテル治療の時にもSASは問題となります。しっかり目がさめている時に治療をすると不安や痛みがあるので抗不安薬、鎮痛薬などを投与した後で治療を行いますが、SASの方はてき面にいびきが激しくなり、無呼吸が頻回に出現します。この治療は無呼吸の誘発試験みたいだなと思う時もあります。
治療時、無呼吸からの最初の呼吸の時には心臓の中の圧はかなり変動します。注意しないと心臓の中に空気が吸い込まれて入ってしまうほどです。無呼吸になっている時には心臓に負担がかかるために不整脈が出現するのだと理解できます。またSASの方では大きな呼吸の変動に伴い、カテーテルの先の位置が大きく移動するので、治療も難渋することがあります。SASの人はカテーテル治療の成績が悪くなるという報告もあります。
また、いつも懇意にしていただいている心斎橋駅前の矯正歯科クリニック(http://www.yoc.info/)の先生のお話では、もとより顎が小さいことも気道のスペース少なくなることからSASの原因になるとのことです。歯科的な治療による顎と歯の矯正がSASを改善させるだけでなく外見もよくなるとのことですので、小さな顎とSASが問題になっている方は一度相談してみてもいいかもしれません。
肥満がSASの原因の場合、まず生活や食事の改善により適切な体重を維持することが必要です。飲酒も節度が大切です。しかし、重症の時はそのままほおっておくと、急な循環器の病気の悪化や突然死の原因になりますので、鼻から専用のマスクを通じて、気道に空気を送り込み気道を広げておくCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法も必要です。うまく使いこなせれば、循環器の病気の改善、日常生活の質の向上が期待できます。