院長コラム
Column

ショック

2017年10月26日

「ショック」とは物理、心理的な急に加わる強い打撃、衝撃という意味で、日常でも本当によく「ショック」という言葉は本当によく使います。特に心が繊細で安定していない若い時期で心が傷ついた時には特によく使われる言葉だと思います。

個人的には昔学生の時に「ショック満開」というフレーズが流行っており、必要以上によく使っていたことを思い出します。

医学的にもショックはよく使われる言葉ですが、多くの方が思われているニュアンスとは少し違います。

血液全身の組織に血流がいきわたらない状態をショックといいます。つまり血圧が急激に低下してしまった状態です。血圧も徐々に低下した場合ではそれなりにうまく調節してなんとかバランスをとれるのですが、急に病気が進行したり、事故をおこしそのバランスが突然崩れた場合には対応できなくなって全身の臓器の傷害があっという間に進行してしまうのです。

収縮期の血圧70㎜Hg未満なると要注意ですが、急激な血圧変化というのも問題となります。普段の血圧が90mmHgの人でしたら、70mmHgの血圧でも大丈夫ですが、200mmHgの人でしたらショック状態となってしまいます。

確かに神経の急なダメージによっても血圧低下がおきますので一般的な心のショックのイメージとも重なってきます。サスペンスドラマでもショックな出来事の後で失神する場面はよく見ます。極度の恐怖や精神的ショック、歯の治療中などの極度の痛み、交通事故などで脊椎が損傷されても出現します。引き続く自律神経の過度の活性化により血圧が極端に低下してしまうためで神経性ショックといわれています。

救急の現場のショック所見は生命の危機であり、可及的速やかにその状態を脱するように治療をする必要があります。ERなどの救急現場でなによりも血圧をまずチェックするのは、まずショックの状態にあるかを確認しているのです。ショックを示している患者さんは救急処置の最も高い重症度に分類されます。

ショックにいくつかのタイプがあります。まず循環器領域では心原性ショックというのがあります。心臓のポンプの機能が急激に低下してしまうことにより血圧が低下します。大きな心筋梗塞や心不全、重症の不整脈、解離性大動脈瘤などが突然出現することにより起こります。

強心薬や血圧を上げる薬などによっても血圧が維持できない場合には、早急に大動脈の中に大きな風船を留置したり(IntraAoritic Balloon Pumping; IABP),簡易型の人工心肺(PSPS)を装着しないと救命できないこともあります。慣れていてもかなりばたばたしますので、心原性ショックの患者さんの搬送時には救急現場の多くの人が興奮して動物園のように騒然となっていたことが思い出されます。

次に出血によるショックがあります。事故や外傷によるものがまず思いつきますが、実際の救急現場では胃潰瘍や食道静脈瘤などの消化管からの出血が多そうです。その時には緊急の補液や血液の輸血が必要です。出血が続くようなら、それを止めるための緊急手術も必要です。

食生活の変化や花粉などの感作などの理由から、最近アレルギー体質の方が増えていますが、アレルギーに伴うアナフィラキシーショックもあります。過剰なアレルギー反応では血管を拡張させるサイトカインが分泌され、重症の場合血圧の低下につながります。アレルギーでは体中のあらゆる場所に蕁麻疹のような浮腫をきたします。気管に浮腫や喘息などによる気管狭窄が強く起これば呼吸もできなくなりますので、呼吸の管理も大切です。

医薬品、食物、ゴム製品、昆虫などがアナフィラキシーショックの原因になります。繰り返す暴露によりひどくなります。アレルギーの原因となるものには近づかないのが原則なので、ひどい場合は職業も変える必要もでてきます。

最後は敗血症性のショックです。ご高齢の方によく見られ、ある意味、心不全、癌、虚血性腸炎などの病気が進行して治療に反応しなかった時などで人生の最後の場面によく見られるものです。体の抵抗力がなくなると体の中に細菌、ウイルス、カビなどがまわり、その毒素から全身の血管が拡張して血圧が低下し、生命活動を維持することが困難となります。

ショックの時間が長くなると、その後血圧が回復し、意識を取り戻した場合でも、その後に重度の呼吸不全などの合併症がどんどん出現し、それが命取りになる時も多々あります。そのためショックの程度を最小限にとどめておくことが本当に大切です。

心も臓器もショックも強すぎたり、長く続きすぎたりするとそれに耐えきれなくなり命を落とす原因になります。急激に大きくなりすぎないように注意し、もし起きてしまった時にも迅速に軽減をはかるということが、それぞれのショックの治療には共通する大切なことのように思います。

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