院長コラム
Column
大切だからこそ怒る
2018年01月12日
星野仙一さん、元プロ野球監督が急逝されました。多くの野球ファンに勇気と希望を与えてくれました。心よりご冥福お祈りもうしあげます。
関西地方では阪神、東海地方では中日、東北地方では楽天で優勝に貢献され、星野監督ほど野球ファンを含め多くの人に感動を与えた方はいないのではないのでしょうか。
星野監督といえば、闘志をむき出しの闘将というイメージですが、その闘志の奥に潜む優しいまなざしと包容力も印象的です。多様なリーダー像がありますが、星野監督は昔の父親のような力強いリーダー像です。
小さい時から貧しい家庭に育ち、野球をするのも苦労されました。野球人となっても傍流と言われた経歴から、監督になられる前までに反骨心あふれる不屈の闘魂を育まれたのかもしれません。
体の大きいガキ大将だった星野少年は小学生、中学生の頃、体に障害のある友達を毎日背負って通学していたそうです。困った人がいると放っとけない心根が優しい思いやりも併せもった方なのだと思います。
監督時代は、鉄拳も辞さない厳しい指導法で多くの選手を育成されたエピソードは有名です。選手のことを大切だと思い、期待しているから腹も立つのだと思います。
人は怒られた時はだれでも悔しくいやな気持ちになります。しかしその悔しさがばねとなり、その時のなにくそという思う気持ちが人を成長させるのだと思います。
そして監督に怒られた人の多くが一流選手となり感謝の意を示しているのは怒られた理由を理解し、そこに愛情を感じたからなのでしょう。
いざ自分のことを思い返してみても、頑張ろうと強くおもった時は怒られて悔しい思いをした時でした。人間というのは弱いもので、優しいことだけを言われ自主性にまかせているだけではたいていな場合で安易な方にながれていくのだと感じます。
20年以上前、私の研修医時代の上司も非常に厳しい人で、いつもよく怒る本当に怖い人でした。いい大人にもなってからも怒らせて廊下でたたされたエピソードも思いだします。
その上司がよく言っていたことは失敗した時は必ずその場で怒ること、悔しくてなにくそと思わせることが人を最も成長させるのだということでした。厳しさと同時に愛情も感じさせる昔ながらの教育方針です。
当時の一番弟子で旗振り役の鬼軍曹先生は、現在の日本心臓病学会の理事長で、その他のOBも大病院の院長先生や循環器学講座の教授先生が多数在籍されていました。市中のいち民間病院の循環器内科の小さなグループとしてはとても珍しいことだという評価です。みなさんたくさん怒られ、なにくそ精神で乗り越え立派になられました。
しかし最近では、厳しく怒り、皆を奮い立たせるような指導法はすっかり影を潜めてしまいました。今ではすぐにパワハラというレッテルを張られてしまいはやらない時代です。
個々の人格や個性をみとめる、脱落者を出さない、それぞれの個性を伸ばす、というようなキーワードをもったやわらかで少し距離をとった感じのリーダーが今の時代ではやりなのでしょう。
こと医療の診察現場を振り返ってみても、同じようなことがありそうです。昔の先生は厳しく患者さんに指導する先生が多くおられました。患者さんに対して父親のように厳しく接するいわゆるパターナリズムという手法です。
しかし、今ではそのような厳しい診察手法はほとんど見られません。厳しく接する先生はえらそうでよくないとやぶ医者のレッテルをはられ、そのようなクリニックは閑古鳥が鳴いて廃業する時代です。
もちろん患者さんの意向を踏まえて敬意をもって優しく接するということは大切です。しかし、大切なことだからこそ時には厳しく怒って指導し、そして達成できた時には手とりながら一緒に喜ぶという昔ながらの姿は今の時代にもあってもいいのだという気がします。