院長コラム
Column
医師の偏在
2019年02月18日
地域医療や救急医療がうまく回らないことから、医師不足が叫ばれ医学部の定員は増加し、新たな医学部も設置されました。
先進国が参加しているOECD(経済協力機構)の中では、人口あたりの医師の人数は高くないからだそうです。
地域や救急医療を担う医師はかなり疲弊しています。医師を増やしてほしいというのは当事者の先生からの心からの声なのだと思います。
しかし本当に医師が不足しているのでしょうか?
一方では少し前までは医師は過剰しているといわれていました。
私が学生の時(30年位前)の時にはこれからは医師が過剰になるので君たちにとっては大変な時代になるという大学の教員の先生もいました。
実際、当時は医学部の学生の数は徐々に減らされていました。
医師を減らしたり、増やしたりで医療政策は迷走しているようにも思います。
確かに医師の数はOECDの中で少ない方かもしれませんが、人口あたりの病院の数は1,2を争う位多く、アメリカやヨーロッパの国の倍近くあるようです。
近い将来的に統廃合などにより病院や病床の数をかなり減らして効率化していく計画のようですし、AI医療による効率化もどんどんすすみそうです。
その時にはまたもや医師は過剰といわれているのかもしれませんね。
そして本音をいえば国(財務省?)はなんとか医師の数を抑制したいのかもしれません。
昔、医療亡国論というのがありました。将来の医療費の増大により国の財政が圧迫されて国が滅んでしまうという考えです。
医療費は原則医師の行為から発生・波及することから、医師の数を抑制して費用を少なくしようという考えです。
おそらくいくら医師の数をあわてて増やしても医師の好きなように選択をしていては、医療費が増大するだけで体力的にも金銭的にも大変な地域医療を担う人は増えなさそうです。
医療がうまく回らないのは医師の絶対数が不足しているのではなく、医師が偏在している問題のほうが大きいような気がします。
医学部は各県に合わせて設置されているのですが、都会や勤務条件のよい科を選択する人が増えているのです。
若い時代には一度は先進医療に携わりたいと願う人が多いですし、女性の医師は将来の子育てのことを考えて都会の大きなチームの一因としてマイペースで働きたいと希望される人が多そうです。
その結果、まず都会に医師が集まります。一度働くとそのまま居心地がよくなるので、その場所に永住するという構図があります。
そして医局に入れば都市部の病院だけを回ることになります。
給料は変わらないので、救急を扱わない忙しくない科がいいと考える人もいます。
私が卒業した医学部のある三重県のことを思い出して少し触れておきます。
確か三重県出身者は2割程度で、東海から4割、関西から3割、それ以外1割という割合でした。
実は入学時から地元出身者がすくないというのが、地方大学の特徴なのかもしれません。受験の制度(A群B群、前期後期など)で、地方大学は都会の有力大学の受け皿となっているという現状もあるのです。
当時はあまり地域医療への危機感はなく、卒業後は勝手にどこにでもどうぞという雰囲気でした。私もあまり深いことは考えずに生まれた大阪に戻ってきました。
それからしばらくして地方の医師不足と地域医療の崩壊の問題が取り上げられるようになってきました。
おそらく複数受験が可能となったのは私の学年からのことなので、それが問題の元凶ならば昔に戻せばいいようにも感じます。
今から考えると私のような経歴の人は地域医療を担うべきだったのかもしれませんね。
私の聞いている範囲での事例を書いておきます。代表的には特に産科が地域医療の問題として取りあげられていると思います。
少し前に奈良県でも産科救急のたらいまわしの問題がとりあげられたのは有名です。
三重県では、特に伊勢市より南の地域(南勢)で医療過疎の問題があります。伊勢までは比較的交通手段があるのですが、それ以南は急に交通の便が悪くなります。
南勢地域には尾鷲市や熊野市がありその近隣の地域の人を合わせるとおそらく8万人位は住んでいるのだと思われますが、産婦人科の医師がいないということで、近くで出産ができないという時期もあるようです。
北海道では、今も180市町村のうち145市町村では産科の医師がいないそうです。
適切な医療が提供できないため、どんどん過疎がすすんでいるという悪循環もありそうです。
地域医療の崩壊は緊急に解決しない問題です。国としても医師の自由にさせていては医師偏在が解決しないとのことで介入に乗り出すそうです。
そのために2020年には国会に提出して医師法の改正まで乗りだす予定のようです。
・医学部の地域出身者の数や病院長人事は各県の知事が決めることができる。
・地方の病院やクリニックの院長になるにはその地域の勤務歴が必要。
・医師過剰地域と医師過疎地域をわけ、過剰地域では今後開業を規制し、在宅医療や緊急対応を義務付ける
などの案だそうです。
人の動きや選択の自由を規制するのはいかがなものか、という意見もあるかもしれませんね。
クリニックのある大阪中央区はもちろん過剰地域です。まわりを見渡すと徒歩圏内に内科のクリニックもいくつかあります。心療内科や婦人科などの専門クリニックも多そうです。
おそらくクリニック周辺では、開業規制がはいるのもしれませんね。
ずらずらと思うがまま書いていくと少し長くなってしまいました。大阪の人からは「わてらにはあんまり関係あらへんがな」とつっこみがはいりそうです。
しかし考えてみるほど人の配置の問題の根は深く、医療のみならず日本のあり方考える上でも大切な問題なのだと感じます。
現在、大学や会社の本社ほとんどは東京に集まり、大阪を含めた関西地区もどんどん若い人が流出しています。まずは東京にいくべきという構造ができあがってしまいました。
このままの構造だと将来的には国の人口の半分以上は東京近隣に集まり、関西10%、東海地区10%となっていき、地域は中核市を除いて崩壊という試算もあります。
日本がバランスよく継続的な繁栄をめざすのであれば、みんなでこの問題はしっかり考えていく大切な問題なのだと思います。
そしてある程度の人の流れへの配慮は必要のような気もしてきます。