院長コラム
Column

感染後の免疫暴走

2020年03月01日

ウイルスに感染をすると体を守る免疫細胞がそれを排除するため、活性化します。免疫機能を高めてウイルスを排除する一方、それが過剰になりすぎると自分の細胞にも障害を与えることになりえます。

風邪は万病のもとといいますが、ウイルスの感染後にスイッチがはいったように免疫反応が暴走し、新たな病気の発症や病状の悪化につながる例は時折みられるのです。

感染後には免疫機能を高めるために免疫細胞からサイトカインを含むさまざまな炎症に関係する蛋白物質が誘導されます。

免疫は本来、外敵から体を守る多くの利点を有する反応ですが、その反応が過剰になると血管の過拡張や血栓の出現など細胞や組織を破壊するなどのアレルギー反応を惹起したりしてしまいます。

例えば風邪をひくと、くしゃみや籍がでますがそれも一つの免疫反応の亢進に伴う症状といえます。

日常の診療においても、風邪をひくと花粉症もひどくなる時もありまし、風邪の後に咳が長期間つづくようなら咳喘息の時もあります。いずれにしてもアレルギーの薬を使用する病状が改善しますので、感染にひきつづくアレルギー様の免疫反応が亢進しているのだと思います。

心臓病などの基礎疾患をもっているお年寄りの方では感染は重症化し、それが原因で命をおとすことにもなりえます。基礎疾患のあるお年寄りの人では免疫反応は低下しているからです。

一方、免疫機能が旺盛な若い人でも感染症により命を落とす場合が稀にはあります。今注目の新型コロナウイルスでも現場の医師も含め若年で元気な方でも重症化して命を落とす例もでてきています。亡くなられた方の病理検査では、肺の組織での過剰な免疫反応による破壊像がみられるとの結果です。

感染にひきつづく過剰なサイトカインの分泌が原因となるサイトカインストームという病態があります。厳密にはアレルギーの反応とは異なりますが、過量に放出されたサイトカインによるアレルギー性ショックのような致死的な状態をひきおこしてしまうのです。

サイトカインストームは同じコロナウイルスによる重症呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の若年死亡の原因の一つですが、新型コロナウイルス感染でも同様だと考えられています。

1914年から流行したインフルエンザウイルスによるスペイン風邪では、世界の5億人が感染し、5000万人~1億人が死亡しました。このパンデミックにより人類は戦争を含め歴史上もっとも命を落としたこととされています。

お年寄りではなく、免疫機能が旺盛な若年例においてより多く人が命をおとしました。

ここまで被害が広まった原因は、まずは現場の医療機関の医師や看護師が多数感染し、医療崩壊してしまったこととされていますが、過剰な免疫反応であるサイトカインストームが原因とも推察されてます。

循環器の領域でも急性心不全での集中治療室での治療中にも急性呼吸窮迫症候群という肺の組織が壊れてしまうサイトカインストームと同じような病態がおこることがあります。残念ながら一度起こしてしまうと薬には反応せず、ほとんどは命を落としてしまうことになります。

体を守る免疫を軍隊と考えると、本来国を守る軍隊が強くなりすぎてクーデターによる内乱により自国を滅ぼしてしまうということでしょうか。このようなことは歴史を振り返ってみてもありえないことではないのでしょう。改めて免疫のバランスが大切なのだと感じてしまいます。

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