院長コラム
Column
コロナと心臓
2020年04月17日
新型コロナウイルス(COVID19)感染が心臓疾患や高血圧の患者さんで重症化し、致死率が高いことが報告されています。
もちろん、ウイルスの感染のメインは上気道や下気道(肺)がメインですが、もとより慢性の肺疾患を患っている人より心疾患を患っている人の方がより予後が悪くなるのは少し不思議です。
もちろん高齢の方では血圧が上昇し、心臓疾患の頻度が増えてきますが、それだけでは説明がつかないのかもしれません。
中国武漢からの報告では、COVID19感染では不整脈や心不全などの循環器異常が15%出現するとされ、心筋傷害を反映するバイオマーカーが増加している方では特に経過が悪いとされています。
欧米からの報告でも集中治療の必要な重症例では、循環器の問題を認める場合が多いとの報告です。
もちろん肺炎になると心臓に負担がかかります。普段から心臓の機能が低下している人では急に負荷が増えるので心不全が増悪するのかもしれません。
しかし心臓から直接COVID19が発見される心筋炎のような病状もあるとの報告もあり、直接的な傷害作用もありそうです。
クリニックにもコロナのことを考えていたら胸の調子が悪くなったとのことで受診されるかたもいますが、検査では特に問題ないようです。心にコロナが感染したということでしょうか。
少し専門的な話になりますが、COVID19は肺の上皮細胞に発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して標的細胞に結合し侵入するとされています。
アンジオテンシンは循環器の領域においてとても重要なホルモン系であり、血管収縮作用による血圧の増加や心臓の肥大に関係します。
心不全や高血圧の方ではではこのホルモン系が活性化しているため、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬 などの薬剤を服用してもらいます。
しかし、かかる薬を服用している人ではACE2受容体の数が増加するとされるため、もしかしたらCOVID19が病状を悪化させる原因になるかもしれません。
マスコミではほとんど取り上げられることはありませんが、循環器の専門医や一部の研究者にとってはとても興味のあるところなので、いろいろと議論がされているところです。
いまのところ、明らかに悪化するという報告なく、海外の学会からもそのまま継続して処方するようにという声明がだされています。おそらく今後いろいろなことがわかってくるのでしょう。
また、COVID19蔓延に伴う、循環器の救急対応や運営の様相もいろいろかわりつつあるようです。
今、病院での感染クラスター出現が問題になっていますが、COVID19感染をそれ以外の患者さんに広げてはならないからです。
疫学的な調査では、インフルエンザなどの感染症が蔓延すると心筋梗塞や脳卒中の発症が増加するとされています。確かに心臓発作の前は少し風邪気味だったといわれる人もいます。
感染による炎症反応により血液がどろどろになるからかもしれません。
感染症が蔓延しているほど循環器の管理がより重要ということなのでしょう。
今ニューヨークでは脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患への緊急対応が不十分なため、COVID19感染者以外の死亡もかなり増加しているとの報告です。
そして予定手術もどんどん先延ばしです。
日本の循環器関連の学会でも不要不急の手術はできるだけ先延ばしにするようにするように通知がありました。不整脈に対するカテーテル治療についても同様です。
こと大阪でも循環器で救急搬送されて検査治療を行った患者さんが実はCOVID19感染者だったという事例もでてきているようです。
それに対応した治療室はしばらくの閉鎖となり、自宅待機となった治療スタッフもでているとのこと。
これからも心臓疾患の対応について救急対応や引き続く管理の問題がどんどんでてくるのでしょう。
COVID19感染ばかりを見ていると、それ以外のことがおろそかになり、結果としてより損失が大きかったということになるかもしれません。
少しでも医療がうまくまわり、全体の損失がすくなくなるような創意工夫と絶妙なバランスが必要なのだと感じます。