院長コラム
Column

来る超高齢社会への現場医療の証拠が必要です

2017年09月25日

最近、循環器疾患の学会や研究会に出席した時には現場の医療(リアルワールド)での証拠が大切だということをよく耳にします。大切なことは代々引き継がれていくべきですが、治療判断ということについてはトレンドがあり、それぞれの時代でメッセージは変わってきているようです。

かなりの昔、一部の名医と言われる方がいて、その人の経験に基づく医療が実践されていました。海外に留学されていた先生も一握りであったと思われますので、一部の師匠と言われる方とそれを仰ぐ弟子の方が治療を主導していく、経験に基づく医療(experience based medicine)の時代がありました。いわゆる医学の徒党制度であり、その時代には昔の医療ドラマにみられる教授と言われるリーダーの後にずらずらと弟子がついて歩いてお伺いをたてるという光景もよくあったのだと思います。

しかし、それでは一部の人しか情報が共有できませんし、発展的でもありません。えらい先生が言っているからというだけでは間違っていることもあるかもしれません。

その後に理由がわからいのに、経験上そうであるからというのではあまりにも科学性に乏しいので、理論やメカニズムに基づいた医療(science based medicine)が大切なのだという時代に移りました。そのためには臨床担当の先生でも研究・実験をされる方も増えました。論理的に物事を考えましょうということです。

しかし、人間の能力では複雑な体のメカニズムを類推しても限界があります。一つの論理でよかれと思って使っていても実際はよくなかったということもよくあります。特に長期的にはよいかどうかはわからないことが多いのです。それではということで、その治療が有効であったという実際の証拠に基づく医療(evidence based medicine)を実践しましょうとなりました。

こと循環器疾患については、生命の予後と密接であることから、本当に死亡率が改善したかどうかということが実証されて初めてその治療が有効ということになります。多くのガイドラインが「証拠:Evidence」をもとに作成されるようになりました。「Evidennce」があるのかというのは多くの臨床現場の先生の口癖にもなっています。

しかし、この「Evidence」のほとんどは薬や治療の副作用がでなさそうな比較的若い患者さんを対象としたものです。

実際、循環器の病気を患われる患者さんはご高齢の方や複数の病気をもたれている方も多く、薬を安全に使えない場合もおおいです。また、もとよりちゃんと服薬できない方もいるかもしれません。ガイドラインから取り残されている方がどのように治療をされ、どのような経過をたどっているのかという現場(リアルワールド)の現状や証拠が必要だというメッセージが大切になりつつあります。

例えば、血液をさらさらにする抗血栓薬をあげると、ご高齢の方では、どうしても出血の合併症が増えてきます。年齢と腎臓の機能を基準に服用する量が規定されていますが、それでは90歳以上の方にどのように使用すべきかの証拠はなく、閉店がらがら状態です。

今後ご高齢の方はどんどん増えてきます。10年後には90歳の方への治療は?100歳の方では?ということに対応していく必要があります。来る未曾有の超高齢社会では机上の空論ではないリアルワールドでの証拠がますます大切となってくるのです。

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