院長コラム
Column
白い巨塔
2017年10月10日
白い巨塔というのは、医学部の教授選や医局などの医学会の知られざる実態を描いた山崎豊子さん原作の小説であり、何度かテレビドラマや映画にもリメイクされています。年配の方なら田宮二郎、比較的若い方なら唐沢寿明を思い浮かべられるのだと思います。
それぞれの時代でかなりの視聴率をとっていましたので、多くの人が惹きつけられるなにか気になるものが描かれているのでしょう。最近では、ドクターXという教授や医局と戦う腕のいいフリーランス医師のドラマもあり、シリーズ化されているので人気があるようです。
白い巨塔のドラマでは、第一外科の財前先生、第一内科の里見先生の立ち振る舞いや人間模様がうまく描かれていました。二人とも卓越した能力の持ち主であるのは共通していますが、財前先生は上昇志向あふれる野心家、里見先生は人情味あふれる研究者というキャラクターでした。政治力のある財前先生は教授になりました。
舞台は浪速大学、大阪在住の山崎豊子さんの旦那さんが大阪大学の第一内科に入院されていたようですので、おそらくは大阪大学医学部を念頭において描かれたドラマだと思います。
私も大学卒業後に大阪大学の第一内科学講座の医局に入局させていただき籍をおいていましたので、なにかしらの親近感を感じます。現在は臓器別講座へと移行していますが、循環器内科学は当時でも旧第一内科の主流といわれていました。
他の業種とは違い医学部の場合、今も多くの医師がそれぞれの専門科の医局に所属しています。臨床講座では、所属する多くの医師の人事などの権限を医学部の教授や医局長がもっていますので、かなりの影響力があるのでしょう。もちろん私には詳細は伺いしれませんが。
医局については医師の中でもいろいろな意見があるので、おそらくそれぞれの地域や専門科によって事情はかなり違うのでしょう。手術を専門とする外科系では規律が厳しく、独立しやすい内科やマイナー系では少し緩いという特徴があるような気もします。
大阪大学循環器内科の医局では多くの医師が所属されており、大学内の循環器内科関連だけでも100人近くの医師が働いていると思います。診療・研究・教育と本当に多くの仕事があふれているので、外からみていると大学の籍をもって働いている人は本当に大変だと思います。
そしてバイト生活の先生も多く金銭的には恵まれていないのだと思いますし、上昇志向のある優秀な先生方が集まっているのでかなり競争も激しくストレスが多そうです。
私自身は、10年位前に不整脈の治療でいくつかの病院に伺うことが多くなった時期に気が付けば医局の人事から外れていたというところでしょうか。ひと昔前の時代であれば、勝手なことをするということで医局からつまはじきにされていたかもしれませんし、ドラマの中では僻地に飛ばすという設定です。
しかし、出張する病院の多くは大阪大学の関連病院でしたし、ずうずうしくのらりくらりとつかず離れずの関係でしばらくやっていました。最近では、医局運営も結構寛容なのでしょう。
妻曰く、夫は治療のために他の病院によく出張していると友達に話をしたところ、ドクターXのような人なのですねといわれたことがあるそうです。そこまでの反骨心はありませんが、確かに少しはかすっています。
現在の大阪大学の循環器内科学教授は、同じ病院で一緒に研修し、大学院の時にも同じ部屋で働いていた同期生です。若い時から遊びも仕事も全力投球する元気で、人の嫌がる仕事も率先して受け持つような立派な人です。当時も私の至らないところをうまくカバーしてくれていたのだと思います。
昔から患者さんのために何ができるかとよく鼻息あらく語っていました。そしてあまりにも頑張りすぎて死にそうやというのもいつもの口癖でした。実績はもちろんのことながら、おそらくそういう正義感と人情あふれる誠実な資質も評価されて教授に選考されたのだと思います。
そして医局長は、昔一緒に不整脈のカテーテル治療をしていた後輩です。時代はどんどんかわっていくものですね。二人とも忙しい合間を縫ってクリニック開業の内覧会の時に花束をもってお祝いに来てくれました。本当に有難いことです。
途中までは同じような環境で仕事してきたはずなのに、一方は医局のリーダーである大学の偉い先生で、一方は医局をはずれたドクターX´?とはなにか少し不思議な気もします。もちろんドラマのように対決することはありませんが。
昔の白い巨塔のドラマでは、教授になるためには人情ではなく実績と政治力が必要でした。私も臨床講座の教授になるような人は、ある意味非情でないと激しい競争に打ち勝つことができないのではと勝手に思っていました。しかしリーダー像も時代ともに変わってきているのでしょう。
残念にもドラマの財前先生は人情が薄く裁判で訴えられてしましたが、これからの大阪大学の循環器内科講座からは人情あふれる優秀な多くの若い医師が育っていくことを期待します。