院長コラム
Column

良薬口に苦し

2018年06月16日

「良薬口に苦し」という言葉は日常生活でも時折は使用する言葉です。言葉通りでしたら、よい薬ほど苦く感じるという意味です。言葉どおりのイメージで使用されている方もおられると思います。

昔からの漢方薬では苦く感じる薬もいくつかありますが、今の時代苦い薬はほとんどなくなって飲みやすくなっています。新しい薬はどんどん飲みやすくなってきています。

一方、「苦し」を「体が苦し」と解釈すると、良い薬は副作用も多いものだということで意味にも通じるかもしれません。

そういう視点で現在使用しいている薬をふりかえってみると確かに当てはまるところが多そうです。

極端な表現をすれば副作用の少ない体に優しい薬は、有効性も少なく処方する意味がない薬も多そうです。

体の状態を変化させ、薬の有効性を発揮するには体に少し負担をしいる必要があるのかもしれません。

循環器の薬の中では交感神経のβ受容体遮断薬という薬があります。交感神経の活動を抑制する効果を有しているので、高血圧、不整脈、心不全、虚血性心臓病などの患者さんに幅広く使用されうる薬です。

ちゃんと服用できれば強い有効性を発揮し、生命予後を改善することが明らかになっているとてもよい薬です。

しかし、服用を始めるとときに、血圧の低下や脈が少しおそくなることによるふらつき、息切れの原因になります。

急に多くの量を投与すると一時的に心不全を増加させてしまう可能性もあります。

有効性が高ければもう少し積極的に使用してもいいように思うのですが、多くの場合患者さんは副作用の多い薬は望まれません。

脳梗塞を予防する血液をさらさらにする薬も一度内出血をおこされるとその後に中止される方もいます。

副作用の多い薬を出す先生は、やぶ医者の評判もたちますので、クリニックの先生では人気のない薬です。

また、重症の不整脈の患者さんに使うアミオダロンという薬があります。難治例に使用する循環器の専門医が使用する昔からある薬です。

甲状腺、眼、肺などに重篤な副作用をおこすことがあるため、服用開始後には厳重なチェックが必要な薬です。

今の時代、重篤な副作用の多い薬は新しく開発して使用を許可されることはないのですが、この薬は昔に許可された薬です。しかしかかる患者さんには今でも最も生命予後の改善に貢献する薬なのです。

もちろん副作用がでないように細心の注意が必要です。しかし短期的な症状のみにとらわれすぎず、飲み始めは少々苦くとも長期的な視点で治療を考えていくということも必要だと思います。

本来、「良薬口に苦し」ということわざは孔子の論語に由来します。

「良薬は口に苦けれども病に利あり。忠言は耳に逆らえども行いに利あり」ということであり、良薬は苦いが飲めば病気を治してくれる。忠言は聞きづらいが、行動のためになるという意味を含んでいます。

真心を込めていさめる言葉や忠告は、聞く側にとってはつらいものだから、なかなか素直に受け入れられないものだという意味です。

聞いた直後には耳が傾けにくいようなことでも、長期的な視点で受け入れる姿勢も大切なのでしょう。

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