院長コラム
Column
「様」から「さん」へ
2019年05月08日
クリニックでは患者「様」とよぶべきか?患者「さん」と呼ぶべきか?どちらで呼ぶのがいいのでしょうか?
それぞれには一長一短がありそうです。
厳密には、病人「様」や障碍者「様」とよばないように、病気を患ったり社会的に不利な状態のある方の後に「様」をつけるのは日本語としては、おかしい表現のようですが。
医療もサービス業なのだから今の時代、「様」と呼ぶのが当たり前という意見もあります。
クリニック開業前に相談した友人も当然「様」にすべきだという意見でした。
マスコミで活躍されていた医療コンサルタントの方も「先生」と呼んでもらっているのだから、当然患者「様」と呼ぶべきだと言われていたように思います。
しかし、個人的には先生はその分野の専門知識がある人の呼称であるので、「先生」と「様」は対応していないような気もします。
大きな病院では、「様」がほとんどのようです。国立病院では、患者「様」と呼ぶようにという上からの通達もあったそうです。
おそらくホテルや高級店などの高額なサービスを提供する場合は、「様」でよぶのがよいのでしょう。
しかし、「様」にはもとよりお互いに立場が対等ではないという、使用者と下僕という感じもでてきます。そのため、少し距離をとったといイメージもあります。
そして「様」には呼んだ人は無条件に服従すべきであるというイメージもあるのかもしれません。「様」と呼ばれることにより、ある割合で特権意識を持つ人、言葉使いのみより上下関係があるとらえる人も出てくるといわれています。その場合、トラブルが増加する原因になりそうです。
つまり、「様」と呼ばれるから、あえて腹が立ち不満を言いたくなるということもあるのかもしれません。
トラブルをうまく処理するという観点だけで考えると、特別に文句の多い人の意見のみを聞いておけばいいという反応もあるのでしょう。しかし、それでは良識をもって我慢いただいているその他大勢の方へのしわ寄せはどんどん増えそうです。
一方、「さん」では距離の近い温かさを感じます。欧米人も最初はからり遠慮して、Mr.やMrs,などの表現で会話をしますが、なれてくると年上の方や上司に対しても対等に名前を呼びあいます。
顧客に対する敬意というのは言葉尻ではなく、心の中にあるのだと思います。言葉だけが丁寧でも態度が一致していなければよけいに腹がたつものです。
ある病院では「様」と呼びだしてから極端にクレームが増え、すべてがうまく回らなくなったが、「さん」に戻したところ笑顔溢れるもとの状態に戻ったというエピソードがあるそうです。
当院では受付や看護スタッフは「様」で呼ぶことからクリニックを開始しました。
しかしながら、時には患者「様」からの怒りをかうこともあり、スタッフへの恫喝になる時もあることに気づきました。
もちろん当院の対応がいたらないことがあるのだと思います。しかし案件のいくつかは、過度なサービスの要求もあるのだと感じています。「様」からくる弊害の一つなのかもしれません。
スタッフが笑顔をなくしてしまっては、雰囲気も悪くなります。
そこで令和の初めから、患者「様」から「さん」に変更することといたしました。
何を今更、逆戻りという意見もあるのだと思います。もちろんどちらがよいのかはわかりません。
患者さんにとってクリニックは病院より目線のちかい身近な場所ですし、来院される方とスタッフの上下関係はなくてよいのだと考えます。
気安くお互いに励ましあい、その笑顔が増えることによりクリニック全体の元気につながるのだと感じています。