院長コラム
Column
心不全パンデミック
2019年09月11日
超高齢社会に向かい、心不全の方はどんどん増えていきます。歳をとるとともに血圧が高くなり、動脈硬化が進行しやすくなるためです。
現在、慢性の心不全の方は約120万人位と想定されていますが、ちょっとだけ心不全とかこれから心不全という方を含めるとその何倍にも上りそうです。
癌の患者さんが100万人くらいといわれていますので、いかにその数が多くなっていくのかも想像できます。
感染症のようにあらゆるところに心不全の人が広がっていくことを、超高齢社会の「心不全パンデミック」といわれています。
心不全は心臓の機能が弱っている状態ですが、漠然として表現なので少しわかりにくいかもしれませんね。
心不全は大きくわけると、心臓のポンプの機能が低下するタイプと心臓が硬くなって広がりにくくなるタイプの2つがあります。最近では4つのタイプに分類されています。
いずれにしても心臓の状態がよくないと心臓の内圧が高くなり、息切れや浮腫みなどがでるのです。
そしてなんとなく調子が悪くなり元気もなくなります。
昔、心不全の病名で亡くなられる人が極端におおかった時代がありました。最後は心臓が停止して、人は寿命を終えるので、死亡病名は心不全死というのもありかもしれません。
しかし、それでは心不全死ばかりになってしまうので、死亡診断書の病名を安易に心不全にしないようにする厚生省の指導もありました。
そのため、しばらくは見かけ上では心不全による死亡は少なくなったようになりました。
しかし、それでも社会の高齢に伴い、息を吹き返したように心不全による死亡はどんどんふえてくるのです。
現在 日本には高血圧の人は1000万人位いるとされています。少し高めの人は加齢により少しずつ血圧が高くなる場合が多いので、予備軍を含めると成人の2人に1人は血圧高めかもしれません。
一般的には血圧の高いままでほったらかしにしておくと、10-15年あたりで、動脈硬化や心肥大をおこしてきて、心臓、血管の生理検査で異常がでてきます。
さらにこのままの状態でほったらかしにしておくと、10-15年位でさらに心臓に負担がかかって、症状を伴う立派な心不全の患者さんになってしまうという流れです。
動脈硬化が進展すると、心筋梗塞を起こす場合があります。ひと昔前では心筋梗塞の方はそのまま命を落としてしまうことがおおかったのですが、治療の進歩により最近では多くの方は元気に退院されます。
しかし、心臓をすべてもとどおりにすることはできないので、心臓の機能や予備能力は低下してしまいます。そして将来の心不全の予備軍となるのです。
心臓の調子が悪くなった時にだけみてくれればいいという考えを持つ方もいるかもしれません。
昔、病院勤務の時に、普段は全く薬をのまないで、心臓の状態が悪くなった時だけ救急車で何度も運ばれてくる患者さんがおられました。
しかし、心不全の入院を繰り返すごとに、確実に心不全の程度は悪化を示し、どんどん寿命が短くなっていくのです。
心不全の患者さんは癌の患者さんに比べて、将来の経過がわかりにくいためか病識に乏しい方が多いような気もします。
しかしご高齢の心不全患者さんは癌の方よりも予後が悪いのです。
心不全にならないように前もって治療をうけておくということがとても大切です。
あらかじめ心不全の発症を予防し、将来に入院を繰り返すことのないようにきっちりと治療しておくことが循環器クリニックの役割なのだと感じています。