院長コラム
Column
サムライの心
2019年10月03日
日本開催のラグビーワールドカップも盛り上がりを見せています。当初、ワールドカップ委員会はラグビー人気が定着していない日本での開催が盛りあがらないのではないかとかなり心配していたそうですが、心配無用のようです。
一過性の人気ではなく、これからもこの人気が定着してほしいものですね。
日本が世界ランク2位のアイルランドに勝利をしました。前大会の南アフリカに続いてのこの番狂わせなGiant killingは世界中に放映され、絶賛されています。
野球やサッカーでは、チームの調子でたまたま勝ったり負けたりすることがありますが、ラグビーは番狂わせがほとんどない競技だからです。
速報ニュースでは得点へのトライシーンなどの派手な攻撃面が注目されがちですが、体格にまさる大きな外国の選手を突破させなかった献身的なディフェンスによる勝利なのだと思います。
特にフォワードによる陰ながらの献身的なタックルと運動量がひかりました。
この勢いなら予選突破も固いと思いましたが、先日のスコットランドの試合ぶりをみると一抹の不安も感じます。まだまだ油断禁物ですね。
従来、海外の強豪チームとの対戦では、体格の違いからあたり負けをして、容易にディフェンスラインが突破されていました。
世界の強豪チームと互角に試合ができるのは、海外出身の日本代表の存在なくしてはかたることができません。
今大会では、31人中の15人が外国人選手です。ニュージーランド、トンガ、南アフリカ、サモア、オーストラリア、韓国、そして、日本の7カ国の選手からなる多国籍チームです。
しかしながら十分な理解のない人からは
「勝つためだけなら全員外人引っ張って来い」。
「日本国籍無いのに代表になれるスポーツなんか、応援する気も起きない」
という意見も未だあるようです。
30年位前、日本代表選手としてただ一人トンガ出身のノフォムリ・タウモエフォラウ選手が活躍されていたことを思い出します。日本にそろばんを勉強するために来日されたのがきっかけです。
当時は 今よりもっと多くの日本人は外国人が日本代表に入ることへの違和感を抱いていたのだと思います。ノフォモリ選手は、本来は日本人が代表になるべきだけれど大好きな日本のために少しでも役に立ちたいと謙虚にこたえられました。
そして、自分を認めていただいた日本に感謝し、現在もラグビーコーチとして後進を育成し、日本ラグビーの向上に貢献されています。
現在のキャプテンのリーチマイケル選手は 15歳で来日し、日本でラグビーを学びました。
日本の選手のラグビーの上手さ、懸命さ、勤勉さに感銘をうけ、日本での生活を通して謙虚さや相手を敬う日本人の姿勢を学ばれました。
そして今では俳句を学び、君が代の意味をチームメイトに説きます。
一方、失敗したことをあいまいなままにしておくことは日本人の悪いところなので、それをきっちりと解決しておくことは自分の役割ともいいます。
最年長のトンプソンルーク選手は、きしむ体に鞭打ち、だれよりも低いタックルをし、すぐさま立ち上がります。
自分は特別な選手ではないからと、ひたむきなに努力しハードワーク続ける姿はチームの精神的な支柱です。
前大会の南アフリカ戦のみならず、今回のアイルランド戦でももっとも評価の高い隠れた勝利の立役者です。
はじめて学んだ日本語が「なんでやねん」。チームの集中力がなくなった時、「なんでやねん」はスクラムの中に響きます。
「何にでも感謝できる文化、日本、特に大阪のことめっちゃすき。好きな町で暮らし、好きな人のために戦うのは幸せなこと。その国の代表として戦う。そこがラグビーのいいところ』とのコメントです。
その他の外国出身の代表選手にもいろいろな思い入れがあるのでしょう。
自分を認めてくれた日本に感謝し、日本を知ろうと努力し、恩返しをしたいと話す外国人選手の心は、日本人より日本人らしいのかもしれません。
それぞれの心の中には日本人に負けないサムライの魂が宿っているようにも感じます。
これからのグローバルな時代、ラグビーにかかわらず、外国人の方をどのように扱うかということはいろいろな分野ででてくるのだと思います。
クリニックにも外国人の方は来られますが、片言の日本語を話しながらもなんとか日本の社会を知り溶け込もうと努力されているのでしょう。
短期的にはいままでの居場所がなくなったということで不満を感じる日本人もいるのかもしれません。
しかし日本に興味を示す外国の人がこれからも日本を好きでいてもらうためにはどんどん受け入れていくしかないのだと感じます。
そして長い目でみると気が付けば感謝しあえる関係になるのでしょう。
多様性があるからこそ組織や社会は、強く健全で競争力のある状態でいれるような気もします。